パシフィック・シークラフト25はトランサムが無く、バウもスターンも波を切る所謂ダブル・エンダー。
今日PSC25を取り上げたのは他でもない、この艇がPSC製フリッカの言わば父親だからだ。
デッキ、ハウス、コーミング等、PSC製フリッカの血統はこの艇に在る。
以前書いたように、PSCは1977年末ノー’スター製フリッカのハル・モールド(+ウェスタリーのデッキ・モールド)を受け継ぎ [フリッカ生産を開始] 。しかしそれと平行する形でハル、デッキともに自社モールドを製作、[1978年] にはそれによる造船をスタートさせた。
自社モールドによるフリッカはデッキ、スーパーストラクチャー(デッキの上に造られた全ての物)、キャビン内のレイアウト・造作全般に渡り、ビンガム・デザイン(自作艇、カスタム・オーダー艇、ノー’スター艇)とは一線を画す、独自のデザインで造られている。
ハウス、コンパニオンウェイ、コーミング等、まさにフリッカと同じぺディグリー。
フリッカはPSC生産ラインの3艇目。PSC25、マリア31に続き、フリッカをプロダクション艇として生産ラインに乗せるため、艇のデザイン細目を確定する技術責任者はビル・ルーサーだった。ビルは前2艇で培われたPSCのデザイン、スタイル、工法をフリッカに遺憾なく取り入れ、ハルそのもの以外のPSCフリッカのデザインを行ったのだ。(詳細は [こちら] の写真下のパラグラフ参照。)
斜め前方から見たところ。イルカの様なイメージまでそっくり。
PSC25は1975~6年のデビュー。デビュー時はこの艇の様にバウスプリットは無かったが、すぐに PSC25マークII としてバウスプリットを付けたヴァージョンも登場した。
バウスプリットの無いヴァージョンのスペックは [こちら] 。いずれにせよ、喫水長が21フィートなので、ハル・スピードは6.14ノット(フリッカは5.75ノット)と足は速い。ビームは8フィートで共通。ドラフト(喫水下)も3.2フィートと、3.25フィートのフリッカより僅かに浅いがほぼ同じ。デッキ長は24.5フィート(24フィート6インチ)と、20フィートのフリッカよりかなり長いものの、ダブル・エンダーであるためコックピット部分が小さく感じられ、フォアデッキを除き、フリッカより4.5フィートも長い艇のようには見えない。大きく異なるのはキャビン内部の高さ(頭を打つか否かと言う意味で通常ヘッドルームと呼ぶ)。これが約5フィートしかなく、フリッカより30㎝位低いのでキャビン内の移動が前屈みとなる。
ちなみにフル・ヘッドルームのある艇は通常27フィート艇以上であり、20フィート艇のフリッカに6フィート弱のヘッドルームがあるのは異例中の異例。
PSC25の図面を引いたのはPSC創業者の一人、ヘンリー・モーシャット。
ハウストップ・キャンバー(屋根の曲面)の度合い、前面の立ち角、キャビントップに配置されたフォアワード・ハッチ等、目に触れる部分だけを観ても、PSC製フリッカに受け継がれたものの多いことが分かる。
機会があればぜひ一度フリッカと乗り比べてみたい艇だ。
(写真はPSC製フリッカのスタイルや生産ノウハウの基礎ともなった1970年代後半のPSC25オリジナル・ヴァージョンの1艇です。)
⇒ 1981年当時の全PSC艇のラインアップ (フリッカの後、1981年に4艇目としてオライオン27が追加されたが、その時オライオンのブローシュア内に全PSC艇が時代順にリストアップされた。)