ボルティモアを出航し、テキサスを目指していたフリッカ [レン] は90日の旅を終え、9月28日テキサス州 [ロックポート] に無事到着したそうだ。
これはメリーランド州ボルティモアの郊外 [ミドル・リバー] にて出航前の姿。
ハルはフェロセメント、リグはギャーフ。
ハルID は RYAF20010374 (RYAはビルダー Ryan Marine のビルダー・コード、F20はフリッカ、01はハル番号、1974年3月にハル完工)。
出航前に上架して船底塗料を塗った。プロの造船所によるフェロセメントなので1974年製とは言え、少しの瑕疵もない。
Wren の艇名と Alpine, Texas のホーム・ポート名もその時に入れたもの。実はアルパインという場所は海とは全く無縁の町で、メキシコ湾岸ロックポートから西北西に500マイルも内陸部に入ったオーナーのホーム・タウンである。
90日間の生活を物語るキャビン内。
カスタムなのでプロダクション艇にはないユニークさがある。アイスボックスはコンパニオンウェイのすぐ横、フォアにシンク、コンロと続く。コンロは非圧式アルコールでギンボル。興しろいのは下のハルの形から分かるように、PSC製フリッカに比べて約10cmギャリーの幅が狭いこと。その分室内のスペースは広くなる。
マストからの荷重を受けるアーチ部分には両舷とも2本のニーが仕込まれているが、真ん中にはコンプレッション・ポストも。
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興味深いのはこのオーナー、最初からテキサスまでシングルハンドの旅をすることだけが目的で、それを完遂したら艇を売ってしまうことを予定してボルティモアで艇を購入したということ。到着10日後の10月7日には売りに出した。死ぬ前に自分の人生でやりたいこと#2にあげていたICW(イントラ・コースタル・ウォーターウェイ)のシングルハンドを72歳にしてやり遂げたからだ。(尚、この艇は既に売れて新オーナーはカリブ海の [ベリーズ] までクルーズ予定という。)
航海中に一番感動したことは? 『お金をいくら払ってもできない経験。高温高湿の7月、浅いことで知られる大西洋岸ジョージア州の湿地帯を走るICWを連続12時間機帆走後、その日予定していた泊地のドックに向かっていた時、船底が泥をズズズッと擦る音。こりゃいかん、水深3フィート3インチのフリッカでもこれか、と焦ってティラーを左右舷に繰り返しパンピングしながら何とかバウを深い方向に向けようとして努力していたら、突然アスターンで何か動く気配と息遣いを感じた。何だろうと思って振り返った時には既に数頭の大きなイルカが体を自艇のハル両舷に寄せ、尾をあっちへこっちへ向けて動かしながら力を合わせて艇を深い方向へ押し始めていた。おおおーっと思っていると艇が自由になり、イルカたちはサッと姿を消してしまった。』
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日本の諸氏、アメリカでフリッカを買い、一夏アメリカや周辺をクルーズして、その後売るなり日本に運ぶなりすることも考えてみたらどうだろう。
(写真はいずれも Ryan Marine の1974年製フリッカ、Wren です。)
⇒ フリッカのリグ