風下に向かう真下りのセイリングは風波が強い時でも嘘のように静かで乗り心地の良いものだ。文字通り風を背にして走るので、ダウン・ウィンド・セイリング、またラニング(ラニング・ビフォアー・ザ・ウインド)とも呼ばれる。
殆どの艇ではヘッスル(ジブ、ジェノア)を片舷にポール出しして、メインをその反対側の舷に出し、ブームにプリヴェンターをセットするのが普通だ。例は [こちらのビデオ] 。その状態は見た目の形からウィング・アンド・ ウィングと呼ばれる。ところがこのフリッカ 『スカウト』 のやり方は一風変わっている。
左舷のヘッスルはその大きさや、形、膨らみ、生地の薄さから、ドリフターのようだ。
右舷のセイルは一見メインに見えるが、実はメイン・ブームをポール代わりにして出したジェノアだ。メインはブーム上に畳んである。
ジェノアのシート(赤いライン)はブーム・エンドのブロックに通し、そこからコックピット横のジェノア・トラック・ブロックを通してウィンチに引いてある。
この方法だと大きいヘッスル2枚を張れるから風の弱い時などパワーが得られるということだろう。
気になるのは、不意のジャイブを防ぐためにブームを前方に引くプリヴェンターが見えないことだ。ジェノアのレイジー・シート(この写真では左舷側に引くシート)でセイルを前方に引っ張る形になっているとは言え、ブームの下に見えるブーム・ヴァングをプリヴェンターとしてセットしないと、ジェノアが3本のシュラウド(日本ではサイド・ステイと呼ぶ人が多いがシュラウドが正しい)やスプレッダー・エンドに擦れてしまう場合があるだろう。破れてしまう可能性も無きにしも非ず。何よりプリヴェンターをセットすれば右舷のジェノアも、左舷のドリフターに対してバランス良く、もっと外に出せるだろう。
ブーム・エンドのブロックを通るジェノア・シートのクロース・アップ。
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尚、外洋クルーズ中の艇では、この針路(ポイント・オブ・セイル)の場合、太陽の出ている間スピネイカーを張る(暗い時は危険なので降ろす)ものが多い。
またショート・ハンドの外洋クルーズ艇では安全性の面からスピネイカーを張らず、代わりに2枚のジブを両舷に1枚づつ揚げるものも少なくない。この目的のため、最初からフォアステイを2本にした [ツイン・ステイ] セットアップもある。ステイが1本しかない場合、左右のジブのハンクを交互に付けて揚げる。いずれにしろ、ジブ2枚張りの場合、天候、針路変更などの条件に応じて、片側のセイルを簡単に反対側のセイルに重ねて帆走することができる。
(写真はいずれもPSC製434艇中366番 Scout です。)
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